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村上泰賢氏の「わが国産業革命のはじまり」110 -日本産業革命の地・横須賀造船所

森林保護 

 黒船と言っても船体はまだ木造だったから、構内の木工所に運んだ材木を汽水に浸けてアク抜きし、乾かし加工して船体、船室、床、天井、壁、階段からロープの滑車まですべて木で作っていた。

 遣米使節が帰国で乗ったナイアガラ号のような大きな軍艦一隻でアメリカの大きな邸宅50~60軒分の木材を使う。建議書にこう書いている。
小栗は本格的な造船が開始されると国内の木材需給バランスが崩れることを懸念して、製鉄所建設工事の着工前1865慶応元年五月に計画的な森林保護と育成を造船所建設委員連名で提唱している。

 「横須賀製鉄所が完成すれば軍艦の建造に必要なものが艦材である。官林で艦船製造に適した木材を伐採、民間からも購入して囲い場を設けて貯蔵する。伐採後の生材は腐朽しやすいので2,3年貯蔵し木脂を抜いて使用する。数百年の巨材を20~30年で腐る艦材に使用すればいずれ国内の巨材が伐採し尽くされるので、いまから森林保育の方策を採る必要がある。官林所管の奉行に苗木植え継ぎから培養保育まですべて規則を設けて実行させ、それが軌道に乗ってきたら各藩および民間所有の森林に波及させ、さらに出来た良材は政府が購入するものとして国内へ通達すべき。役人を派遣して森林保育を勧奨すれば、海国である日本にとって必要な多数の軍艦を製造することに、永く艦材不足の憂いはなくなるでしょう。」(「海軍歴史12」村上泰賢意訳)

 4年計画の造船所建設工事の鍬入れ式はこの年九月だった。その4ヶ月前に造船所完成後の木材供給の行く末を配慮して、森林保護を提唱していることは先見性に優れた小栗上野介の面目躍如といえる。

 この頃欧米では「鉄が水に浮かぶものか」と言われた時期を過ぎ、鉄船の研究が進んで本格的な鉄船建造が始まっていたから、小栗の配慮は杞憂に終わったが、彼の先見性がこういう分野にも発揮されていたことを確認しておく。

本紙2632号(2023年11月27日付)掲載





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