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村上泰賢氏の「わが国産業革命のはじまり」97 -日本産業革命の地・横須賀造船所―

 1996平成8年のこと、当時の横山横須賀市長から幕末に購入したハンマーが残っていると聞いて、11月に村の仲間と米軍基地になっている元横須賀造船所に見学に入った。案内されて驚いたのはその大きなこと。両手で振り上げる普通のハンマーをイメージしていたがとんでもない、それは大きな半円形の鉄のアーチがどっしり据えられ、その中央の高さ約五メートルもある大きな筒の中の蒸気の力で重さ3㌧のハンマーが上下するスチームハンマーだった。しかも、出迎えた工場長は「ちょうど仕事が入っているのでこれから動かします。すぐに中へ入ってください」と挨拶もそこそこに案内してくれた。

 まだ動くのか、と驚く私たちの目の前にすぐに真っ赤に焼かれた300㌔の鋼材が天井のクレーンで運ばれ、アーチの中央のハンマーの真下に据えられると、台に乗った技手の手でハンドルが操作され、ハンマーがスッと上がり、自重3トンの重い響きでガシーンッと打ち落とされ、みるみる形を変えてゆく。

 すごい震動にも驚いた。この振動が他の機械に伝わって支障が起きないかと訊いてみると、「このハンマー全体の作業場の周囲を深く溝を掘って周囲の機械類と縁切りし、地下には松丸太をタテヨコの井型に8㍍の深さに並べて埋め、ハンマーはその上に据えてある」との話であった。この松材を使う工法は日本古来の石垣積みにも使われている。城の石垣などの積み初めが沼沢地だったりすると深く掘った基礎にやはり松丸太を井桁に組んで並べその上に基礎石を置いて積み始める。脂分の多い松材は土の水分が多いほど強さを発揮して腐らない。

 ガシーン!ガシーン!と火花が散ってたちまち成型され、太いキノコのような形になった。何を作っているかと聞くと、「秘密ですが…」と耳元で「空母インディペンデンスのボイラーに故障が生じて、ちょうどボルトの注文が入っていた。皆さんがこのハンマーを見学に来ると基地渉外部から連絡があったので、それなら動かして見てもらおうと、打っています」と、またまた驚きの話だ。

本紙2593号(2022年10月27日付)掲載





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