現在位置: HOME > コラム > 村上泰賢氏の「わが国産業革命のはじまり」 > 記事



村上泰賢氏の「わが国産業革命のはじまり」94 -日本産業革命の地・横須賀造船所―

 鉄工所-錬鉄・鍛造・旋盤・組立・製鑵(せいかん)・鉄骨・鑪削(ろさく)・製飾・填(てん)隙(げき)・雑製

 一覧図のドックの上の大きな煙突は、買い込んだ銑鉄を小型の反射炉で溶解して鋳鉄、鍛鉄、鋼鉄などを生産するシンボルであり、この辺り一帯が鉄工関係の工場で、相互に機能しあって造船の部品作りをする造船所の主流であった。ネジをはじめシャフト、パイプ、歯車、ジョイントなどたくさんの船の部品と大砲や銃、砲弾までここで造られ、組立工場で組み立てられ、試運転していた。まさに遣米使節小栗忠順らが見学したワシントン海軍造船所と同じ総合工場である。

 製飾所で船の木材補強の宛金具や飾り金具のほかに、船で必要な日常生活の器具のナベや釜、スプーン・ナイフ食器類などの日用品も作った。
かつて館林市で私の講演を聴いた板金屋さんが「感激した。父は横須賀造船所の学校で板金を身に着け、私に伝えた」といって、中国の古典に出てくる「宥座ゆうざの器」を復元したからと寄進してくれた。折をみて後で紹介しよう。
製鑵所 蒸気機関の石炭を焚く窯、その上で湯を沸かす釜類を造っていた。のちのガソリンエンジンを内燃機関というが、この頃は釜を外(下)から熱して蒸気を造る外燃機関が全盛で、車に積めば汽車、船に載せれば蒸気船になった。

 蒸気機関を造るだけでなく、構造・機能・効率が研究され、船体工学と合わせて船舶工学が当時の工学の最高位置を占めていた。現在の工学の最先端は飛行機工学から宇宙工学に移っている。空に上がっても間もなく降りる飛行機と違って宇宙工学と船舶工学は、乗っている人間の生活を長期間支えることが必須の共通課題である。だから船のイメージで「宇宙船」というシップになる。

 ほかにネジはもちろん、造船所内の鉄工所であらゆる工具・部品・工業製品を造り「船も造る」総合工場だから、造船所の周辺によくある下請け工場が「一覧図」に見られない。下請け工場の必要がなかったのだ。それに下請けに出したくても、受ける技術を持った民間企業がまだ育っていなかった。

本紙2584号(2022年7月27日付)掲載





バックナンバー

購読のご案内

取材依頼・プレスリリース

注目のニュース
最新の産業ニュース
写真ニュース

最新の写真30件を表示する