現在位置: HOME > コラム > 村上泰賢氏の「わが国産業革命のはじまり」 > 記事



村上泰賢氏の「わが国産業革命のはじまり」21-日本初の株式会社―

 パナマ鉄道はコムペニー


 アメリカ側の説明は「建設費は総額700万ドル。資金はアメリカ政府が出したのではない。裕福な商人が資金を出し合って鉄道組合を作り、出資した資金で建設し、出来上がると利用者から運賃をもらって経営し、運営経費以上に利益が出ると資金を出した割合に応じて出資者に配分する」というもの。

 当時日本ではこのような仕組みを「コムペニー」といった。パナマ鉄道はCompany=株式会社の手法で建設され運営されていたのだ。この建設費700万ドルがどれほどのものか。比較するなら、6年後にアメリカ政府がロシア皇帝から買ったアラスカがほぼ同額の720万ドル。ロシア皇帝は隣国カナダが英国領だから、常に覇権を争っている英国と戦争になれば簡単に占領されてしまう。毛皮がとれなくなってきたアラスカを今のうちにとアメリカに売ったのだ。


 同行の使節団メンバーも鉄道会社の説明を聞いたはずだが、小栗忠順の反応は他の人々と違っていた。

 幕府政治の特徴は、司法・立法・行政・外交すべての権力を握りながら、利益を追求する財政は町人のすることとして遠ざけた。「権力もカネも」追求するようになった明治以後の政治家との違いだ。だから幕府はいつも「カネがない」と言うが、大名に大金を貸している富豪商人がたくさんいる。彼らの資本を集め、このコムペニーの仕組みで仕事をさせれば、鉄道のような社会資本整備により日本の近代化も進む。小栗はパナマ鉄道の仕組みをこう理解すると、帰国後、攘夷の風潮が盛んなときにためらうことなく「外国のものでも、いいものはどんどん取り入れるべき」と語り、慶応三年に兵庫開港が決まると「兵庫商社」設立の建議書を幕府に提出した。

 これが日本初の株式会社となる。

本紙2368号(2016年6月27日付)掲載





バックナンバー

購読のご案内

取材依頼・プレスリリース

注目のニュース
最新の産業ニュース
写真ニュース

最新の写真30件を表示する