真っ赤なフェラーリに乗って
「そっちはどう?」
母親に電話して里の様子を窺うと、小さな田舎の町でさえ既に60人ものコロナ患者が出ているという。都心部ほどではないにせよ、田舎でも潰れる飲食店や会社があると聞き、残念でなりません。
「そういえばさ、あのフェラーリのおばあちゃまは? お変わりなくいらっしゃってる?」
この田舎では目立ってしょうがない、真っ赤なフェラーリに乗って実家の鰻屋へ来られるおばあちゃま。といっても自分が運転するわけでなく、息子さんに運転してもらって隔週で鰻を買いに来られます。自分の大きなベンツを溝に嵌めてから怖くて自分で運転でなくなったからだそうです……。そのおばあちゃまの息子さんはというと、他にポルシェ977とマセラティも所有されています。どうやったらあの田舎の土地でそんな財を築き上げる事が出来るのか不思議ではありますが、全くの謎めいたことが世の中には起こり得る。でも待てよ……。よくよく記憶を辿ってみると、実家のある田舎には、農作業する軽トラと並んで高級車がいやに目に付いたのは事実です。車には一切興味が無かった私も、銀座でお勤めするようになれば高級車は自然と覚えるものです。だから余計に、田舎に高級車が割合多く走っているのを見ると「あるとこには、あるんだな」って考えが過ってしまうんです。そう考えれば、コロナの時代になって、貯蓄をしていた個人は助かっているかもしれない。一ヶ月もたずに潰れてしまうのと、数年赤字でもポストコロナを見越してやっていく企業・飲食店の違いは、これまでの蓄えだと思いますから。
「大丈夫、あのおばあちゃまなら同じペースでいらっしゃってるわよ」
電話越しに母の言葉を聞いてほっとしました。そうだ。コロナが終息したら「銀座に一軒お店を出しませんか?」なんて提案してみようかな? そんな思いつきが私をワクワクさせてくれます。二週間に一度のペースで、高級車に乗って鰻を買いに来られる元気なおばあちゃまの快活な笑顔が目に浮かび、ほんの束の間、私の心を穏やかにしてくれるのでした。
バックナンバー
- 真っ赤なフェラーリに乗って 2021.10.07 木曜日