サヨナライツカ
ある銀座のクラブのママから「大変お世話になりました。お店を一旦閉店します。またいつかお会いしましょう」とメールが届きました。その瞬間、ある映画のタイトルを思い出しました。――サヨナライツカ。この映画、ご存じの人は西島秀俊さんと中山美穂さんの顔を思い浮かべられるのではないでしょうか? 豪華なダブル主演で話題になりましたもんね。婚約者の居る男性(西島秀俊さん)がタイで出逢ったある女性(中山美穂さん)と激しく惹かれ合い、逢瀬を重ね、どうしようもなく別れ、男性は日本へ帰国後に婚約者と結婚をします。しかし25年後に二人は劇的な再会を……。――切ないんです、とっても!! 互いに惹かれ合っているのに決して結ばれはしなかった。25年って長い月日ですよね。映画では割愛されるその時間の流れの中には色んな出来事があったはずです。仕事上では昇進し、家庭では新しい命が生まれ、世間ではデジタル化に高齢化に温暖化が進む……。映画の中でなく、今現在の我々の生活に照らし合わせてみても、今後のポストコロナ時代にはあらゆることが変わってしまっているでしょう。
サヨナライツカの響きが切なく、もの悲しく感じられるのは、「イツカ」って社交辞令の言葉であって、本当はやって来ない実現しないものの意味合いだからです。……そうですね、身近な事で言えば、マスク姿の女の子がエレベーターのボタンを押そうとすると、「触っちゃ駄目よ」と母親がそれを制して、代わりに手の甲でボタンに触れていたのを見ました。「あぁ、変わっちゃったんだな」と感じた、なんとなく寂しい出来事でした。
マスク姿も、マスクによる肌荒れもその息苦しさも、室内の定期的な換気も、徹底した消毒も、それが段々普通になって「あたりまえ」がじりじりと変わってゆく。
銀座のイツカが戻ってくるとして、それは一体いつになるのでしょう? そしてその銀座はどんなイツカになっているのでしょう? サヨナライツカのイツカ到来は実現する確率が低いものです。そして、時の流れの中で、同じスタイルのままでいる事なんて絶対に叶わないんです……。
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- サヨナライツカ 2021.08.07 土曜日