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「生霊」

「何か居る」そう感じた事が人生で一度だけあります。それは随分仕事にのめり込んでいる時期でした。――ずしりとした重さが両肩に。私は元々肩凝りで右肩が痛くなるのですが、両肩に何かが圧し掛かっているような重さでした。おかしいな、と思いつつも仕事の疲れの所為かなと思ってその日は眠りました。しかし翌日起きた時も、朝からやはり怠く気分も沈んで何となく調子が悪い……。暫くして出勤確認の電話が掛かってきた際、店長から「憑いてたよ」の一言。そう、その店長、見えるんですね。「昨日、一番奥の席で接客してた時、見ちゃったよ。あれは生霊だね」って。生霊とは、生きている人間の霊魂、強い念の事です。それが体外に出て執着している相手の元へ飛んで行ってしまうらしい。こういう職業は、疑心や嫉妬、恨み辛み、恋慕……様々な想いが集まって来る世界。ですから、銀座に生きる人々はそういうものが憑きやすいのだそうです。明らかにいつもと違う状況に、霊感のない私でさえ「確かに何か居るんだ」って納得してしまいました。

「どうしたらいいですか?」

「とりあえず玄関に盛り塩。両肩と頭に清め塩。とりあえずやってごらん」

 私は藁をも縋る思いで店長の指示に従いました。すると今迄ずしりと圧し掛かっていた重圧が一気にすうーーっと引いてゆきました。ヒヤリとしましたね。そんな経験、人生の中で一度もありませんでしたから。因みに私に憑いていた生霊は男性だったようです。女性の生霊は男性の生霊よりも執念深くてお祓いしてもらわないといけないレベルなのだそうです。

 意識的に「私の生霊、あの人に向かって飛んでいけ〜」って念じて飛ばす人も稀にいらっしゃるようですが……。大概はそんなつもりはなくとも、無意識に生霊を飛ばしてしまっているそうです。何故なら人を想うって自然な感情ですから。あなたも気づかぬうちに飛ばしているかもしれません。恋い焦がれている女性に対して、あるいは凄く腹が立った上司に対して……。





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