銀座という場所
銀座……、仰々しい名前ですね。歴史に精通している方はご存じと思いますが、銀貨を鋳造・鑑定・検印していた場所がその名前の由来であります。江戸幕府が始まるまで通貨、貨幣はバラバラだったんですね。最終的には銀貨を統一しようと、今の銀座で貨幣製造が行われていたのです。二度の大火を経て文明開化の象徴として街並みが整備され、階級の高い顧客を相手とする商人が進出して賑わいました。その繁栄にあやかりたいと各地に『〇〇銀座』が登場したそうです。日本に『銀座』と名の付く所が約三五〇も存在するのはその為です。ここで皆さんは銀座があるなら、金座があってもいいのではないか、とお思いになりませんか? 在ったんですね。現在の日本銀行本店がある場所がそうでした。銀貨と同じように金貨鋳造の場所でした。ご興味がある方は「金座通り」を歩いて歴史を感じられるのも良いかと思います。さて、銀座とひとことに言っても広いです。ちなみに高級クラブの多くが六丁目から八丁目に立ち並んでいます。私が銀座デビューを飾ったのも並木通りにある八丁目のお店でした。
「アンタ、昼の仕事辞めて夜一本にしぃ。銀座においで」北新地でお世話になっていたママの一言がはじまりでした。
ママは銀座にもお店を持っていたのです。田舎の『イモ娘』と呼ばれ、しかも週二回のバイトの私が? 勿論、迷いが無かった訳ではありません。でも、不安以上に面白そうという気持ちの方が勝っていました。それに、私はその時既に二十代後半。勝負するなら今しかありません。
そしてもう一つ、私なんかを目に掛けて期待してくれる人がいるんだと思うと、とびきり嬉しかったんです。会社員として決められたルーティーンの下で働くよりも、マニュアルの無い世界で自分を成長させていく事の方が、人生にとって何百倍価値があるだろうか、とも思いました。「ママに騙されてんで」とか「東京で人身売買に遭うで」とか脅かすお客様もいらっしゃいましたよ。特に、ご贔屓のお客様なんかは父親の如く怒り狂って反対して下さいました。「お前なんかに出来へん! 夜の世界は思うてる以上に厳しいところや!」それでも、最終的に自分の気持ちには抗えません。
私は昼職を辞め、銀座と言う歴史深い街に身を置く事になりました。
本紙2018年5月7日付(2435号)掲載
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