小池安雲の色の魅力
第82章
店頭に並ぶ果物が桃から梨に変わったのを見ると、秋になったと感じます。みなさま、いかがお過ごしですか? 衣替えをした方も多いかと思いますが、私はうっかり何もせずに秋を迎えてしまいました。ついつい季節を忘れてしまうのは気をつけなければいけませんね。同じように、古くから続く伝統や文化も大切にしたいところです。
日本の文化がどうやって育まれてきたのかに想いを巡らせると、やはりこの変化に富む季節、四季に拠るところが大きいのではないでしょうか。豊かな自然を感じ、尊び、恵みをいただき、感謝をする。その想いが、伝統にも繋がっているのかなと思います。
伝統を表す色はターコイズ(青緑)。構成を紐解いてみると、ブルーとグリーンが合わさった色です。
ブルーは、水の色。感性や感情を表します。例えば、毛布のふんわりとした温もりを「心地が良い」と感じるのはブルー。さらにそれを「大切な人に包まれているようだ」「包まると安心する」などと、精神的な感覚に結びつけるのもブルーです。感性は、その時々によって水のように揺れ動きます。だからこそ豊かであり、新鮮であり、情緒があります。
では、グリーンはというと、季節や時間を表します。四季を表すのはまさにグリーンです。その折々の瞬間や空間を感じること、それが年々積み重なっていくこと。樹木のようなイメージです。瞬間の積み重ねが年輪となって、時間を形成していきます。
この、感性のブルーと時間の積み重ねのグリーンが組み合わさったものが、ターコイズの伝統になります。
伝統というと「古くからあって変わらないもの」だと思いがちですが、実はそうではなくて、自然の変化や日々の想いを感じ、表現していくことが日々積み重なって、次第に伝統を形作ってきたと言えるでしょう。そう考えると、いま私たちが感じて形作っているものも新たな伝統になっていき、年輪に加わるのですね。代々受け継がれてきたリレーのバトンを受け取るようで緊張しますが、古くから伝わってきたものを大切にしながら、今日という瞬間をしっかり感じ、大切にしていきたいと思います。
ここでいつものワンポイントアドバイス。ターコイズは次の世代にバトンを渡す色なので、責任感がとても強いです。「バトンをきちんと渡さねばならない!」という思いから、手厳しい教育をしてしまうことがあります。つい小言を言いがちだ…という方は、使いすぎにはご注意あれ!
2018年10月17日付・第2451号紙面より