小池安雲の色の魅力
第142章
突然ですが、先月フランスへ行ってまいりました。知人がフランスで葡萄とナチュラルワインの生産をしており、葡萄収穫とワイン造りのお手伝いをするのが目的です。
ナチュラルワインをご存じでしょうか。農薬や肥料を一切使わずに育てた葡萄を手摘みで収穫し、発酵にも醸造にも添加物を一切加えず、すべてを葡萄本来の力で行う製法で作られたワインです。驚くのは、葡萄畑に水すら撒かないこと。雨水だけで育てるため、出来は天候にとても左右されます。近年は異常気象で天気が読めないため、収穫時期が近付くとずっと葡萄の様子を見ているそうです。
「肥料も水も与えず農薬の必要もないのなら、農作業は何をしているの?」という疑問が湧くかもしれません。彼らはひたすら観察をしています。葡萄の実がつきやすいように枝を伸ばして支えたり、病気がないかチェックしたり、鳥が葡萄をつまんだら「鳥の喉が渇いているからだ」と近くに水場を設けたりと、丁寧に観察して対処をすることで一日があっという間に過ぎるそうです。
そうして丁寧に育てられた葡萄を私たちがカットします。熟し具合を見てOKだったら房を外し、虫食いや病気になった粒を除きます。酸っぱい匂いがしたら危険なサイン。大丈夫な葡萄かどうかを迷ったら葡萄を食べてみて、甘ければ大丈夫です。これを、一つひとつの樹に対しておこなっていきます。天候を読み、ひとつひとつ手で触れ、よく観察し、匂いで嗅ぎ分け、舌で再確認する。五感をめいっぱい働かせる日々でした。
フランスに滞在中、よく「プリミティブ」という言葉を聞きました。原始的、根源的という意味合いです。自然とともに暮らして、食事は畑で採れたものや猪を撃ったものを調理する。彼らの暮らしはまさにプリミティブでした。
プリミティブを色に例えると、原始という意味を持つレッドが思い浮かびます。実は、フランスに行く前は仕事に関してややスランプを感じていたのですが、素朴な生活をするうちに「本当に大切なことはシンプルだ」という想いが強くなり、原点回帰ができました。また、たくさん身体を動かして自然のものを食べる生活のおかげで元気になりました。レッドにはタフさや生命力という意味もあるのです。悩んだときのシンプルライフ、おススメです!
ここでいつものワンポイントアドバイス。レッドは原始に還る色ですが、行き過ぎると粗野になります。丁寧さを失わないよう、使い過ぎにはご注意あれ!