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小池安雲の色の魅力

第141章

このひと月ほど、スランプに陥っていました。特筆すべきようなことがあったわけではありません。むしろ、向上心を持って仕事に取り組もうとしている最中でした。「もっとお客様に喜んでいただくにはどうしたら良いか」「自分らしいモノづくりをするためには何が必要か」などと考えているうちに、「私のやっていることはひとりよがりではないか」「世の中には、もっと良いサービスがいくらでもある」と、否定的な思考に陥ってしまいました。

不調なときは何かしらのヒントを求めるもので、私は武蔵野市にある三鷹天命反転住宅へ行ってきました。一見奇抜でカラフルな住宅は、芸術家であり建築家の荒川修作とマドリン・ギンズによって2005年に建てられた「死なないための住宅」です。通常の住宅と何が違うのかというと、何より形状が独特です。でこぼこに波打ったざらざらで固い床、まん丸のボールのような球体の部屋など、普通に歩くことすら難しいほど。一人一人の身体が中心となるように設計・構築された空間と環境だそうで、なるほど、身体の軸を意識していないとバランスが崩れます。「暮らしながら身体が鍛えられるから天命反転住宅という名前なのかな?」と思いきや、もっと深い意味がありました。“与えられた環境・条件をあたりまえと思わずにちょっと過ごしてみるだけで、今まで不可能と思われていたことが可能になるかもしれない=天命反転が可能になる”という主旨だそうです。

あたりまえを超えていく色はブルーです。水のように柔軟で形がないけれど、だからこそ広がり、枠を超え、浸透していきます。思い返せば、スランプ中は経験を軸にして計画を立てていたため、あたりまえに拘りすぎて柔軟さを忘れていました。ブルーは感性の色でもあるのですが、感性を活かすことすら失念していた自覚があります。

どぎつい色合いでいびつなのに格好良い建物のなかにいると、あれこれ考えていたことが吹き飛んで「なにか面白いことがしたいな」と思ってしまうのが不思議です。丸い部屋に寝転がり、天井から吊るされた椅子で遊ぶうちに自然と楽しくなってきて「スランプもそのうち消えるだろう」と、近いうちに運気が反転するような気持ちになって帰宅したのでした。

ここでいつものワンポイントアドバイス。ブルーは枠組みを超える色ですが、使い過ぎると奔放さに歯止めが利かなくなります。開放的になりすぎないよう、使い過ぎにはご注意あれ!


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