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小池安雲の色の魅力

第138章

 「工藝はさわらないとわからない〜触文化への招待〜」というイベントに行ってきました。スーツケースに収納できる指物細工の茶室を組み立てながら、その茶室を全盲の文化人類学者の広瀬浩二郎氏が手で観るという実演が目当てです。“手で観る”とは面白い表現だなと思ったら、“みる”という言葉には“舌や手などの感覚によって物事を知る”という意味もあるのですね。

実演では、指物のパーツが組み立てられていく様子を、観客の反応とともに全盲の広瀬氏が聴いています。そして茶室の柱や畳に触れ、どう感じたのかを教えて下さいました。組み立てている様子は目に見えなくても、指物のパーツが合わさる音や、組み立てる人の息遣いで「木をはめるのがきつそうだな」「だんだん息が上がっているから大変そうだな」という様子がわかるのだそうです。驚いたのは、茶室に入るとその狭さも気配で感じられるということ。目が見えないのは不自由ですが、視覚が制限されることによって触覚や聴覚などに集中できる良さがあるということでした。見えてしまうと、その情報が逆に気を散らすこともありえる…というお話に、思い当たることがあります。

というのも、「情報が多すぎて混乱する」「自由すぎると逆に困ってしまう」という話をお客様からよく伺うからです。たしかに、何の条件もなく「好きにしてください」と言われたら、選択肢がありすぎて迷ってしまいますよね。
平安時代に書かれた「作庭記」という作庭指南書には、ひとつ石を置くことで最初の石が次の石を乞う、と書かれているそうです。前提や制限があることで、次の一手が見えてくる。

 可能性を示す色はホワイトで、まっさらで無限であるがゆえに途方にくれることもあります。そこへ一石を投じるのがレッドです。レッドは物質を表すとともに、行動をもたらす色でもあります。無から有が生まれることで、次の有が生まれていく。さらにレッドは肉体を表す色です。 “みる”という言葉には、注意深くうかがうという意味もあります。目で見るだけではない、身体でみるという感覚に集中していくと、感じる世界がさらに広がっていくのかもしれません。茶室のイベントで、はからずもマインドフルネスの境地を体感することができました。

 ここでいつものワンポイントアドバイス。レッドは動きを活性化する色なので、勢いあまって止まれない…なんていうことも。くれぐれも、使いすぎにはご注意あれ!


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