プラスグレルとアスピリンでステント血栓症リスクが減少
【シカゴ(米イリノイ州29日PRN=共同JBN】治験中の抗血小板剤プラスグレル(prasugrel)にアスピリンを併用することによって、致命的な結果を生じる可能性があるため医師と患者にとって大きな懸念となっている冠動脈ステント血栓症(ST)のリスクが統計的に有意かつ顕著に低下した。この調査は、TRITON-TIMI38臨床試験におけるステント療法の研究でクロピドグレル(clopidogrel, 登録商標Plavix)にアスピリンを併用した標準療法と直接比較して行われた(1.13%対2.35%、p<0.0001)。
調査所見は29日、シカゴで開催された心血管造影・インターベンション学会(SCAI)の学術会議と米国心臓病学会(ACC)「イノベーション・イン・インタベーション」(i2サミット)の合同会議の席上で、ハーバード大学医学部助教授のスティーブン・ウィビオット(Stephen Wiviott)博士と心筋梗塞における血栓溶解(TIMI)研究グループの治験担当者が発表した。この原稿はこのほか、英国の医学雑誌「ザ・ランセット」(The Lancet)オンライン版でも同時に発表された。
少なくともひとつ以上の冠動脈内ステントを植え込まれた登録患者1万3608人のうち1万2844人について行われたこのTRITON-TIMI38臨床試験は、全体的な結果がすでに発表されている。これらの患者のうち登録時点でベアメタルステント(BMS、従来型の金属製ステント)を植え込まれていた患者は6461人、薬物溶出性ステント(DES)を植え込まれていた患者は5743人、BMSとDESを両方とも植え込まれていた患者は640人だった。ステント血栓症は、この臨床試験においてあらかじめ定義されたセカンダリーエンドポイント(副次的評価項目)のひとつである。
プラスグレルを使うことによって、冠動脈ステント血栓症(ステントを植え込まれた部位に新たに生じた血栓)のクロピドグレルに対する相対的なリスクは52%低下した(1.13%対2.35%, p<0.0001)。プラスグレルを使った治療により、薬物溶出性ステント(DES)を植え込まれた患者はクロピドグレルに対する相対的なリスクが64%低下し(0.84%対2.31%, p<0.0001)、ベアメタルステント(BMS)を植え込まれた患者では48%低下した(1.27%対2.41%, p=0.0009)。
この分析によると、プラスグレルを使った場合は、患者が使用しているステントの種類(BMSまたはDES)に関係なく、また適用されたARC(学術研究コンソーシアム)の定義(definite/confirmedステント血栓症、definite/confirmed+probableステント血栓症、definite/confirmed+probable+possibleステント血栓症)の違いにも関係なく、早発性(30日未満で発症)、遅発性(30日以上450日までに発症、いずれも治療期間中央値)どちらの場合においても、クロピドグレルを使った場合に比べてステント血栓症の発症率がつねに低下することがわかった。「definite+probableステント血栓症」は、ステントを植え込まれてから30日以内の患者にプラスグレルを投与した場合は59%低下し(0.64%対1.56%, p<0.0001)、30日以降(450日以前)の患者でも40%低下した(0.49%対0.82% p=0.03)。
第一三共株式会社で臨床開発担当バイスプレジデントを務めるフランシス・プラット(Francis Plat)博士は次のようにコメントしている。「ステント血栓症は、その致死率の高さを考えると非常に深刻な問題だ。TRITON試験では、 definiteまたはprobableに分類されるステント血栓症患者210人のうち186人(89%)がイベント発生の結果として死亡、または心筋梗塞を発症している。当社ではこの調査結果に多大な関心を持ち、PCI(経皮的冠動脈形成術)と冠動脈ステントを使っているACS(急性冠症候群)患者のために、将来、プラスグレルによって新たな治療法を実現できる可能性に期待している」。
プラスグレルを投与した場合、TRITON試験のプライマリーエンドポイント(主要評価項目)である心血管死、非致死性心臓発作、非致死性脳卒中をステント使用患者が発症するリスクは、クロピドグレルと比較して19%減少している(9.7%対11.9%, p=0.0001)。プラスグレルを投与した場合、ベアメタルステント(BMS)だけ植え込まれた患者のプライマリーエンドポイント発症率は29%低下し(10.0%対12.2%, p=0.003)、一方、薬物溶出性ステント(DES)だけ植え込まれた患者のプライマリーエンドポイント発症率は18%低下した(9.0%対 11.1%, p=0.019)。致命的なステント血栓症が発現したのは、プラスグレルを投与した患者が18人(0.28%)、クロピドグレルを投与した患者が29人(0.46%)だった。特に注目すべき点として、ステント血栓症の患者210人のうち89%が、このイベントが原因で死亡、または心筋梗塞を発症している。
ステント治療患者全員の重度出血率を比較すると、プラスグレル投与群がクロピドグレル投与群を上回った(2.4%対1.9%, p=0.06)。DES、BMS使用患者のプラスグレル投与群とクロピドグレル投与群の重度出血率を比較すると、それぞれ3%対2%(p=0.34 DES)、2%対2%(p=0.09 BMS)だった。
プライマリーエンドポイントの大幅な低下(心血管死、非致死性心臓発作、非致死性脳卒中)に加えて、心血管死、心臓発作もしくは緊急標的血管再血行再建術(UTVR)の必要を併せた複合評価項目においてベアメタルステント(BMS)使用患者(10%対12%, p=0.009)と薬物溶出性ステント(DES)使用患者(9%対1%, p=0.004)でプラスグレル投与群とクロピドグレル投与群を比較した結果においても、前者に有意な低下が認められた。心臓発作の発症率に限って見ても、プラスグレル投与群に有意な低下が認められた(BMS使用患者で8%対10%, p=0.003, DES使用患者で 7%対9%, p=0.006)。DESを植え込まれた患者は、シロリムス溶出ステント、パクリタキセル溶出ステントの別に関係なく、プラスグレル投与群には同程度のクロピドグレル投与群を上回るイベント減少が認められた。
母集団全体で見ると、亜急性ステント血栓症(24時間~30日後)の発症率は、プラスグレル投与群が0・36%であったのに対し、クロピドグレル投与群は1・19%だった(p<0.0001)。DESを植え込まれた患者のステント血栓症発症率は、BMSを植え込まれた患者よりも低かった。DESを植え込んだ直後の3日間では、プラスグレル投与群はクロピドグレル投与群よりもステント血栓症発症率に有意な低下を示した(0.14%対0.63%, p=0.003)。同様に、DESを植え込んでから30日経過後の血栓症発症率においても有意な低下が認められた(0.42%対0.91%, p=0.04)。
イーライリリーで心血管/急性病治療担当バイスプレジデントを務めるJ・アンソニー・ウエア(J. Anthony Ware)博士は次のようにコメントしている。「クロピドグレル投与群よりもプラスグレル投与群の患者のリスクの低下が見られたことは、急性冠症候群(ACS)のリスクが高いPCI施術患者には朗報となる」。
▽TRITON-TIMI38ステント分析について
多施設、無作為、二重盲検法、2群並行、フェーズ3(第3相臨床)試験として行われたTRITON-TIMI38では、経皮的冠動脈形成術(PCI)を受けた急性冠症候群(ACS)患者に対するプラスグレルとクロピドグレルの有効性を直接比較した。PCIは、冠動脈へのステント留置などにより、冠動脈の狭窄を開く治療法である。この臨床試験は、30カ国の707施設で1万3608人の患者を登録して実施された。
この調査では心血管死、非致死性心臓発作、非致死性脳卒中の影響をプライマリーエンドポイント(主要評価項目)として複合的に評価し、PCI施術後14・5カ月間(中央値)にわたってプラスグレルとクロピドグレルの有効性を比較した。主な副次的評価項目として、心虚血性イベントによる再入院、30日後の時点における再灌流のための追加治療(緊急標的血管再血行再建術)の必要性、ならびにステント血栓症の発症が含まれた。主な安全性評価項目には、プラスグレルの全般的な安全性や忍容性のほか、非冠動脈バイパス術(CABG)治療時の重度出血、生命に関わる出血、ならびに軽度の出血が含まれた。
プラスグレル投与群とクロピドグレル投与群に無作為に振り分けられた患者は、そのグループ分けおよびPCI終了1時間後までの間にプラスグレル60mg、またはクロピドグレル300mg(承認用量)を負荷投与した。その後は毎日、プラスグレル10mg、またはクロピドグレル75mgの維持投与を行うとともに、全患者に毎日、低用量のアスピリンを投与した。
TRITON試験に登録した被験者は、少なくともひとつ以上の冠動脈ステントを植え込まれている場合は無作為にステント分析の対象に含め、さらに植え込まれたステントの種類によって小グループに分けた。プライマリーエンドポイント、ステント血栓症ならびに純粋な臨床的有用性(あらゆる原因による死亡、心筋梗塞、心臓発作、心筋梗塞における血栓溶解(TIMI)による重度の出血)を含めた臨床転帰を、生存分析法を使って評価した。
ステントを植え込まれた1万2844人の患者全員を対象とした分析には、3種類のステントグループがすべて含まれていた。つまり被験者は、指標となるPCI施術時点でベアメタルステント(BMS)のみ使用、薬物溶出性ステント(DES)のみ使用、その両方を組み合わせて使用している患者のグループに分けた。DES、BMS単独使用者の分析にはそれぞれDES、BMSのみ植え込まれた患者だけを含め、両種のステントを混合使用している患者(被験者母集団の5%未満)はそのどちらにも明確に該当しないため、DESまたはBMS単独使用者のグループの分析から除外した。
▽プラスグレルについて
プラスグレルは、第一三共株式会社(東証:4568)とその共同開発パートナーである宇部興産株式会社が発見した経口抗血小板剤治験薬で、第一三共とイーライリリー(NYSE: LLY)が、当面PCI施術後の急性冠症候群(ACS)患者に適用できる可能性のある治療法として共同開発を進めている。プラスグレルは、血小板表面でP2Y12アデノシン二リン酸(ADP=adenosine diphosphate)受容体を遮断し、血小板の活性化と凝集を抑制する。抗血小板剤は、動脈閉塞の原因となる、または心臓発作や脳卒中を引き起こす可能性のある血小板の凝集を防ぐ効果がある。
イーライリリーはそのパートナーである第一三共に代わって2007年12月、米国食品医薬品局(FDA)に対して新薬申請(NDA)を提出し、2008年2月には同局から優先審査の指定を受けた。また、イーライリリーはパートナーを代表して、2月に欧州医薬品庁(EMA)に対してプラスグレルの医薬品販売承認申請(MAA)を提出した。
▽第一三共株式会社について
約一世紀の歴史を誇る日本の大手製薬会社2社が2005年に合併して発足した日本の第一三共株式会社(Daiichi Sankyo Company, Limited)は、世界各地で患者の生活の質(QOL)を高める画期的な医薬品の開発を続けているグローバルファーマイノベーター(グローバル創薬型企業)。心血管疾患、癌、代謝性疾患、感染症などの分野で蓄積した知識や専門技術を基盤に、製品ラインアップと研究開発パイプラインを豊富に揃えている。
▽イーライリリー・アンド・カンパニーについて
イーライリリー・アンド・カンパニー(Eli Lilly and Company)は、技術革新志向型の大手製薬会社として、世界各地の自社研究所や提携先の優れた研究機関の最先端の研究成果を応用することにより、世界最高水準、クラス最高の製品ポートフォリオを擁している。インディアナポリス(米国インディアナ州)に本社を置き、医薬品および医薬関連情報の提供を通じて、世界で最も緊急性の高い医療ニーズに応えている。
このプレスリリースには、治験化合物であるプラスグレル(CS-747, LY640315)が持つ可能性に関する「将来予想に関する記述」が含まれ、第一三共とイーライリリーによる最新の判断が反映されている。しかし、他の開発中の薬剤化合物と同様、開発のプロセスならびに規制当局による審査にはつねに大きなリスクと不確定要素が伴う。その化合物が規制当局による承認を受けられるかどうか、規制当局による承認が両社の予期する適応症に適用されるかどうか、もしくは後日の調査と患者の経験が調査所見と一致するかどうかについてはいっさい保証することはできない。また、その化合物が商品化されて成功するかどうかについてもいっさい保証することができない。これらを含めて、それ以外のリスクと不確定要素に関する説明については、イーライリリーが合衆国証券取引委員会(SEC)に提出した書類、ならびに第一三共が東京証券取引所に提出した書類を参照されたい。第一三共、イーライリリーのどちらも、将来予想に関する記述を更新する義務をいっさい負うものではない。
(共同通信PRワイヤー)
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- [医療機器]プラスグレルとアスピリンでステント血栓症リスクが減少 2008/04/01 火曜日