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田中熱工 ステン材の機能性窒化処理の技術
【ねじ・ネジ・業界紙】 エマナックグループの田中熱工(株)(大阪府守口市。田中良典社長)は、金属熱処理の多種多様なニーズに応える受託加工を展開している。なかでも、ステンレス鋼のハイレベルな窒化処理は、製品機能及び付加価値を高度化させる処理方法として定評を得ている。
それらについて今般、近畿アルミニウム表面処理研究会の会誌に同社取締役技術部長・香田剛昌氏の論文「我が社の最近の技術 機能性窒化処理」と題して紹介されたことなどもあり、改めて同社の技術が高く評価されている。同論文にて田中熱工のハイレベルな窒化処理技術等に目を向けてみた。
約30年前、やや耐食性を有したSUS410の光輝焼入れを行い、その品質は表面から心部までの硬さをHRC40~45のスルーハードンにて市場へ提供していたが、タップ機能は問題を抱え不満足であった。
浸炭焼入れによる、表面硬化(傾斜機能)した鋼製タッピンねじのタップ機能と同等の品質特性の要求に応えるべく開発が始まった。当初、金型及び工具類(合金工具鋼)は窒素パージの雰囲気過熱炉にて焼入れしていたが製品の表面が硬化していることを発見した。
この現象を、SUS410に応用していくことになり試行錯誤の末、表面硬化(表面硬さHV600、窒化深さ200μm)に成功した。
第一号機は、回転式レトルト炉(耐熱鋳鋼をスパイラル形状にした管)で焼入れを行ったが、レトルト内側のポーラスな鋳肌が加工品の円滑な進行を妨げる難点があった。ハンマーリング等の衝撃を与え加工品の移動を促したが、限度があった。
二番目に採用したのが、バッチ式の窒化パージ雰囲気過熱炉であった。このタイプを数回改良して数年、操業したが過熱炉内の雰囲気(露点)を保持するために、常時窒素パージ状態のため、コスト高の問題を生じた。
三番目に採用したのが、真空炉である。当時の真空炉メーカーは、真空浸炭に着手した時代であった。真空炉のメーカーの内、A社のハード面(装置)・当社のソフト面(固有技術)を合体することにより「真空窒化」が完成し大幅にコスト面での改善がなされた。
しかしながら、開発された「真空窒化」という加工技術は当社内でも特許の有効期限が終了するまで、マル秘扱いにされた。
一方、付随する周辺の技術面も発展し続けているのである。
(1)材料(冷間圧造用ステンレス鋼線・JISG4315)=材料ロッドメーカー自身も、冷間圧造性・工具寿命・耐食性及び熱処理強度(窒化特性を含む)を配慮した化学組織を設計したのである。
特に、C量、Cr量及びMn・S(非金属介在物の抑制)の制御技術は飛躍的に向上した。
(2)耐食性=特に、真空窒化(一般的な窒化反応ではない)における析出物の制御を行い、微細なクロムの窒化物をマトリックスに分散析出させることにより、ステンレス鋼の窒化による耐食性の劣化を防止する技術を確立した。
開発当初は、熱処理後にステンレス鋼としての外観特性(インテリア性)を向上させるべく、製品同士の共摺りバレル加工を行っていたが、耐食性は良くなかった。次に、オーバーコート(Si系、油脂系)にて、しばらく市場へ提供したが、使用環境が過酷になるに従いオーステナイト系ステンレス鋼と比較されるようになった。
ここで、本格的な不働態化処理(パシペート処理)の開発が必要となった。
SUS410は12%Cr含有量にてクロムの酸化には不利であるが、最表層に何とかCr2O3を形成することにより、ねじ頭部の耐食性の改善が可能となった。
しかしながら、ねじ部は転造加工による強加工を受け、伸線時の潤滑皮膜(蓚酸、金属石鹸等)が真空窒化後も頑固にねじ谷部に残存し局部電位を生じ耐食性に悪影響を及ぼしている。従って、潤滑皮膜及び鉄粉等の異物は真空窒化前に完全に取り除き、表面性状を均一にする必要がある。
最近、韓国の伸線メーカーが環境負荷への取り組みにて潤滑皮膜自体の成分を変える試みがある。
当社の真空窒化処理は、約30年の技術変貌を経て、最表面にはオーステナイト系ステンレス鋼と同等の耐食性を有するナノオーダーのクロムの酸化物層・次層には200μmの硬い窒化層、そしてマトリックスには12Tクラスの高強度ではあるが粘靭性に富むマルテンサイトの心部組織。従って、耐摩耗性と耐食性の両方の特性をバランス良く合わせ持つ機能傾斜型の窒化層を完成させた。
このことは、材料―伸線―前処理―[真空窒化]―不働態化の各工程間の連携及び、各々の技術的な相互理解による研鑽に支援された賜物と考えられる。
今後は、更に環境悪化による耐食性の向上、金属元素の高騰等に対処すべく、技術開発を行いたい。
第2069号1面
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- 田中熱工 ステン材の機能性窒化処理の技術 -- 2008/03/13 木曜日