「食文化の違い」
自分が渡伊する前の若い20代の頃、厳しい先輩達から多くの事を教えられたが、その中のひとつにフォークの使い方がある。
まず第一に、当時の業界のルールで、ナイフやスプーン等の、フォーク以外の「洗い物」を増やさない事が大前提としてあった。今でこそ、余程の高級店でない限りはナイフ、スプーン、フォーク等の什器類はステンレス製であるが、1980年代は殆どのレストランは銀メッキの物を使っていた。だから使用頻度を増やすことによるキズや劣化等のリスクを減らす狙いもあった。しかしこれがまたまあまあの手間で、銀製品の宿命だが、使わなくても曇ってきてしまうため高級店で働いていた頃は1週間に一度は白い手袋をはめてそれら銀メッキの什器を、 ナイフからティースプーン、そして当時はワインクーラーからその台部分、トレイから水差し、大きな銀盆まで全て磨き上げていた。
そんな訳でスタッフの賄いはスープや肉の塊以外は全てフォーク1本で食べる、という習慣が生まれた。例えば生野菜サラダ等はコツさえ掴めば誰よりも早く上手に食べる事が出来る。どういうコツかというと、利き手にフォークを持ち、反対の手には一口大のパンを持つ。そのパンで生野菜を押さえ込み、フォークにどんどん差していくのだ。サラダはフォークで食べるのは実は容易ではない。大きなものや形が立体的なものならいいが、葉っぱのように薄いものや、皿の中でサラダのかさが少なくなってくるとフォーク1本だけでは差しづらいのだ。パンで押さえ込む事によって面白いようにサラダを効率よく食べられる。押さえ込んだパンにはドレッシングが染み込んでいてまたそれも美味しい(あくまでもパンとドレッシングの美味しさ次第だが)。
そしてこの経験が後の渡伊の時に役に立った。例えば、ラザニアもカネロニもナイフは使わない。イタリアもフォーク1本で食べる。切るときはフォークを横に立てて切るのだ。
スパゲッティだって同じ。反対の手にスプーンなど手にしようものなら馬鹿にされる。
リゾットだってフォーク1本だ。これは余談だが、米だからといってイタリアでリゾットは主食ではない。野菜料理に分類される。主食はパンなのだ。だからリゾットを食べながらパンを食する。もちろん締めのメニューでもない。また、イタリアにはドリアも存在せず、ナポリタン同様、日本のみのメニューだ。
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- 「食文化の違い」 2020.06.14 日曜日