優しい嘘
「大好き」は罪のない言葉だけど、「愛してる」は嘘。いつぞやのコラムにて書かせて頂いたと思いますが、仕事をする上で罪のない嘘をつかねばならぬのがこの世界。お客様の気分を良くさせる為に、嘘をつきます。
深夜のお客様はお酒の入ったオスですから、タクシーで送ってもらった帰りにマンションに上がり込もうとする方だっていらっしゃいます。たとえ一人暮らしだったとしても、そういう時は「妹が来ている」「母親と暮らしている」と嘘をつかねばなりません。
あけすけに「私、彼氏が居ます」「昨日合コンに行ってきました」とお客様の前で公言している新人ホステスさんがたまに居ます。いくら正直で本当の事を言ったとしても、お客様の気持ちを考えると興醒めです。だって気になっている女性にそんな話をされたら「貴方に全く興味がありません」と言われているようなものじゃないですか。色恋あるなしどちらにせよ「貴方を特別に想っています」という雰囲気で接客するからこそ嬉しい気分になるもの。お客様は非日常を味わいに来ているのですから、正直に何もかも話される事が良い事とは限りません。ホステスの嘘は優しい嘘だと思っています。人を騙そうとか、貶めてやろうという気持ちとは逆の『嘘も方便』というやつですから。……こういう事実を踏まえたうえで飲み屋に行けば、自分に余裕ができませんか? 貴方が今まで、狙った女性を口説く為にお店に通っていたとしたら、その女性の癒しを求める為に店に通って、その場だけ愉しむ飲み方が出来るようになるでしょう。
私は、嘘をつくのが下手でした。顔に出ちゃうんですね。一番の失敗は、訊かれて住所も本名も教えてしまった事。そしてそのお客様に興信所を付けられてしまったんです。マンションを見張られているというのはぞっとします。自分を大事にしてくれて信頼がおけるお客様。そういう安易な考え方だったのですが、距離感が近い程怖い事もあるのだと悟りました。丁度ホステスを辞める頃だったので動き易く、すぐ引っ越し新しい環境で生活を始めましたが、引き際って肝心。〝ご縁〟は大事にしなければならないですが、潮時を見極め〝良い思い出〟として心に残る女性になりたかったです……。
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- 優しい嘘 2020.10.07 水曜日